皆様、こんにちは。
今日はマレーシアを舞台にした古い小説のご紹介です。
- 【社会派推理小説家 故・松本清張氏】
- 【マレーシアが舞台の小説『熱い絹』】
- 【実在のシルク王失踪事件が題材】
- 【作中で描かれる、1970年代のマレーシアの様子】
- 【マレーシアが好きなら地名と絡めて楽しめる!】
- 【最後に】
【社会派推理小説家 故・松本清張氏】
私の好きな作家の一人に故・松本清張さんがいます。若い方にはあまりなじみがない作家さんかもしれませんが、1950年代から活躍し始めた社会派推理小説で有名な作家で、代表的な作品は『点と線』や『日本の黒い霧』。
近年ではドラマ化された『黒革の手帖』や『砂の器』も知られていますが、それ以外にも数々の名作を生み出しています。入念なリサーチの元に執筆された作品、史実に基づいた作品も多く書かれていて面白い作品ばかりです。まさに現代を代表する名作家だったと言えるでしょう。
【マレーシアが舞台の小説『熱い絹』】
そんな清張さんの作品のひとつに、マレーシアを舞台にした『熱い絹』という作品があることをご存じでしょうか。1972年に連載がスタートしその後改稿を経て1985年出版と古い著書ですが、マレーシアに精通されている方なら一度は耳にしたことがあるであろう作品です。
『熱い絹』/松本清張著/講談社
この作品の舞台は、今も昔もマレーシアの避暑地として名高いPahang州(パハン州)のCameron Highlands(キャメロン ハイランド)。そこで実際に起きたある事件を題材に、清張さんならではの細かなリサーチの上に成り立つ謎解きが展開される作品です。
【実在のシルク王失踪事件が題材】
この作品は1967年にマレーシアのキャメロン ハイランドで実際に起きたシルク王ジム トンプソンの失踪事件を題材にし、そこにさまざまな架空の設定と大胆な推理も交えた内容になっています。
実際に起きた事件ですが今もってその謎は解明されないまま。そう、ジム トンプソン本人は未だ行方不明のままです。そういった要素から読んでもとても興味深い作品です。
ちなみにこの事件の真相究明はその後も世界のメディアによって時折報道はされていて、私が知る限りはこの2017年の発表が最新のもののようです。記事内では第二次世界大戦後に東南アジアで吹き荒れた独立への抗争も絡んだ事件の概要についても書かれていますので、興味がある方はぜひご一読ください。
【作中で描かれる、1970年代のマレーシアの様子】
『熱い絹』の作中にはマレーシアの地名や文化について綴られているシーンも数多く登場します。
マレーシアが好きな私としては最初は舞台がマレーシアだから、という単純な理由で読み始めたのですが、そもそも最初に執筆連載されたのが1972年というかなり昔。執筆連載開始が1972年ということは、着眼からリサーチの期間はもっと前の1970年前後と予想されます。私はもちろん当時のマレーシアを知りませんし、その頃のマレーシアの様子を知る人はそうそういないでしょう。
1970年頃のマレーシアは今のような発展を遂げる前の時代。舞台となるキャメロンハイランドへの途中でTapar(タパー)やIpoh(イポー)、そして首都であるKL(クアラ ルンプール)の町や観光名所についても今とは違う雰囲気の描写があったりとなかなか興味深いです。
【マレーシアが好きなら地名と絡めて楽しめる!】
この小説は題材そのものはどこか戦後の影が色濃く表れたミステリーで、それ自体は読んでいるとどことなく暗い気持にもさせていくのですが、マレーシアに興味がある人であれば登場する地名などと絡めて想像がふくらむ楽しさがあります。
私は長距離バスでマレー半島を旅していた頃は、この小説を読みながら実際に登場する町に降り立ったりもしました。時には古い佇まいの食堂を見かけると小説内で登場する食事のシーンを思い出してみたりと、実際に自分が目にしているマレーシアと小説内で描かれるシーンを交錯させながらマレーシアの町を歩くのもとても良いものでした。
古い小説ですので今の私たちの感覚で読んでいると若干無理やりな感が否めない部分もあることも正直なところ。ですが、それ以上に清張さん特有の陰りの漂う文体や作品ムードが陸の孤島とも言える熱帯ジャングルの雰囲気とマッチしていて、その世界にグイグイと引き込まれていく作品でもあります。
【最後に】
マレーシアが舞台になっている小説は新旧を問わずあまり見かけません。そういう意味でもこの『熱い絹』はマレーシアの雰囲気を感じることができる貴重な作品でもあります。
もしまだ読んだ事がないという方がいらっしゃいましたら、せひ一度読んでみてください。読み終わったらきっと、キャメロン ハイランドを訪れてみたくなるでしょう。
そしてもちろん、マレーシアの事情に精通していなくても十分に面白く読むことができる作品ですので、ぜひ一度手に取ってみてください。